日本はなぜ不況を脱せないのか
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2012年の初めから、バブル崩壊以後の長引く日本の不況について、アメリカを中心として世界中の多くの経済学者などが議論している。
この記事では、アメリカにある独立系シンクタンク、INDEPENDENT INSTITUTEの上級研究員のBenjamin Powell氏が、異なる3つの経済理論の観点から、日本の不況の原因と解決法について考察している。
これは2002年に書かれたものだが、先進国経済が「日本化」という単語に必死に首を振る中、10年も前に書かれたこの記事は、我々にいくつかの示唆を与えてくれるかもしれない――
第二次世界大戦からの”奇跡”と言える日本の経済成長、その数十年の後、1990年に日本経済は突然行き詰り、成長が止まった。何故だろうか。ケインジアンやマネタリストの説明も日本経済停滞の根拠を説明出来ていない。しかし、オーストリア学派の消費循環理論はこれを説明することが出来る。
1985年から2000年における日本経済の概要
1985年9月のプラザ合意以降に起きた円高は、輸出部門に大きな打撃を与え、1985年には4.4%あった経済成長率を1986年には2.9%まで減少させた。日本政府は1986年1月から1987年の2月にかけて大規模な金融緩和を実施し、円高を止めようと試みた。この間、日本銀行は公定歩合を5%から半分の2.5%に引き下げた。不動産の資産価値と株式市場を暴騰させることで、経済に刺激を与え史上最大の金融バブルを作り上げた。1989年と1990年に、政府は公定歩合を5度に渡る利上げを行なって6%とし、金融政策を引き締めることで対応した。これらの利上げの後、市場は崩壊した。
日経平均株価は60%超も下落し、1989年の終わりには最高で40,000円あった株価は、1992年には15,000円にまで落ちた。日経平均は1990年代半ばに、「景気はすぐ持ち直すだろう」という希望のもとにいくらか回復したが、経済の見通しは悪化の一途を辿り、株価は再び下落した。日経は2001年3月に12,000円を下回った。不動産価格も同様に、1991年から1998年の不景気に80%の下落を見せた。
実質GDPは1990年代に停滞し、1990年には428兆円だったが、2000年の469兆円までにしか成長しなかった。1998年からは日本の実質経済成長率はマイナスだった。失業率は1991年には2.1%だったものの、2000年の終わりには4.7%にまで悪化した。とはいえ、失業率は世界の水準からみても低く見えるかもしれないが、失業率4.7%は日本経済にとって重要な意味を持っていた。何故なら、日本では終身雇用が慣例となっており、1980年代までに失業率は2.8%を超えたことがなかったからだ。また、日本政府は雇用調整助成金を企業に支払い、従業員を解雇せずに”窓際族”として維持したため、実際の失業率はこうした公表されるものよりも高い。
ケインジアンの解説と解決方法
ケインジアンのマクロ経済理論では景気循環の変動は総需要の崩壊によって起こるとしている。消費は比較的安定しているので、総需要の弱体化は投資の減退が原因だと指摘している。ケインズは投資の減退の原因について詳細には説明していないが、彼はこの原因を経済界の「アニマルスピリット(企業家の投資行動の動機となる、将来に対する主観的な期待)」のせいであると述べている。1980年代の資産バブルが無視されると、日本の株式市場でも1989年から1992年の間に見られたように、急激な信用不安が経済界で起こり、投資は崩壊し、日経平均株価は60%超もの下落を引き起こした。ケインジアンの理論では、投資減退の原因は詳しく記されていないために、反論することは難しい。それにもかかわらず、日本では投資の減退に拠らない不景気が存在した。
ケインジアンの理論においては、価格の下方硬直性があるものなので、均衡に向けてすぐに調整されることがないとしている。たとえ、経済が最終的にその均衡に至るにしても、均衡は不可避のものではない。たとえ価格調整が最終的に均衡をもたらすとしても、ケインジアンはそのプロセスには非常に長い時間が必要だと考えている。ケインジアンの考えでは、不景気から回復するためには、政府は税金を引き下げ、投資の減退に対抗するために政府支出を増やして総需要を増加させるといった積極的な財政政策をとらねばならない。通常、ケインジアンは政府の支出増大を好む。だが、日本の多くの財政政策はケインジアンの考えに沿ったものであったものの、日本経済は不景気からの脱却に失敗した。
1992年から1995年の間、日本は合計で65.5兆円を投じた6つの景気対策を実行し、所得税率を1994年の間に軽減した。1998年の1月には、2兆円規模の定額減税を行った。そして、1998年4月に政府は16.7兆円を投じた総合経済対策を公表した(その半分は公共事業を目的としていた)。さらに、1998年11月にも23.9兆円規模の緊急経済対策が発表され、一年後の1999年11月には、18兆円を使い経済新生対策を試みた。最後に、2000年10月、政府はまたも11兆円の財政刺激策(日本新生新発展対策)を発表した。合計で日本は1990年代に、総額100兆円以上、10パッケージにも及ぶ財政刺激策を行ったが、景気を回復することに失敗した。政府によるこれらの経済対策は、ただ日本政府の財政状況を悪化させただけだった。G7で最大となる、債務残高がGDPの100%を超えるという事態を引き起こし、特別会計を含めると債務額はさらに多くなった。
ケインジアンのフレームワークでは、「LM曲線の変化は総需要には何の影響を及ぼさない」という『流動性の罠』が存在することを認めている。したがって、ケインジアンの理論は日銀が経済回復のために行ったインフレ政策(この後のマネタリストの項でも述べる)が失敗した原因を指摘することができる。
流動性の罠に経済がはまってしまった場合のケインジアンの解決策は、政府が金融システムに流動性を生み出すのではなく、政府が企業に直接、資金を融資するということだ。日本は財政投融資計画を持ち、予算に含まれない行政組織は一般会計の歳出の70%に値する。財投は多くの資金を郵便貯金口座から借り入れている。この資金が財務省の資金運用部と各機関の仲介を通じて、借り手に割り振られる。この資金はたいてい、最も効率的な事業に割り振られることはない。
こうした資金の仲介を行う機関は自民党に所属する議員によって運営されていた。エコノミスト・インテリジェンス・ユニットの報告には「財政投融資計画に用いられた資金は、自民党の建設業界といった”伝統的な支持者たち”がいる業界に、事業の費用とそこから得られる利益に関して、適切な検討も行われずに注入されていた。このケインズの理論による政府による直接融資は、銀行の貸し渋りこそ回避したが、経済回復の助けにはならなかった。資金は市場に根ざした消費者のニーズに対して適切に振り向けられることはなく、自民党と強い繋がりを持った企業のみがその恩恵を受けた。これにより、民間からの資金調達を模索していた企業の借り入れコストが引き上げられ、さらに経済は歪められた。
この過程で日本政府の財政は悪化し、こうした財投や特別会計も含めれば、日本の債務はGDPの200%を超えると推計されている。
著名なニュー・ケインジアンであるポール・クルーグマン氏は次のように指摘する。
「消費者のニーズに適合しない公共事業や行政サービスに資金を回している日本の郵便貯金制度は、全く役に立たない。だからこそ利益を生まない事業者の借入をロールオーバーし続ける日本の慣習は、労働者に”誰も望まない”商品を作らせ続ける。」
クルーグマンは「こうした問題は、日本が限界まで生産を行なっていない限りは全く問題ではない」と指摘している。彼は「供給に焦点を合わせることは、”不適切な需要”という本質的な問題を無視することになる」と語る。しかし、日本の問題は総需要の不足にあるわけではなく、生産の仕組みが消費者が持つニーズにマッチしていないことにある。誰も必要としない商品を生産し、誤った投資を助長することは経済の助けにはならない。こうした政策はケインジアンが唱えた”穴を掘って埋める”仕事に金を払うという、不況対策の特効薬と同じだ。こうしたいずれの政策も、経済を復活させることはない。なぜなら、これらは消費者のニーズに合うように、企業の生産の仕組みを変えさせたりはしないからだ。
クルーグマンは別の解決策も提案している。ニューケインジアンは金融政策を超えた財政政策を、厳格には支持しない。クルーグマン氏は「日銀がドルやユーロ、長期債を買うことで、ゆるやかなインフレと円の弱体化を促進すべき」という「非伝統的」金融政策を推奨する。クルーグマンは「私はこの政策が上手く行くかもしれない理由を説明出来るが、それに何の意味があるのだろうか。今まさに起きようとしていることでもないのに。」と述べている。クルーグマンはこの政策は実行され得ないものだと思うべきではない。1997年半ばから1998年半ばにかけて、彼の提案に似た政策がとられたが、そのときは効果を発揮しなかった。これは日銀が保有するCP(大企業などが発行する短期、無担保の手形)が1170億円になった期間のことだ。
財務省と日銀は民間から国債を買い上げ、保有する日本国債の額は2.22兆円になった。この額は市場全体が持つ割合の53%相当に上った。それと同時に日本政府は日本円の力を弱めようと働きかけた。それでも日本の経済は刺激されずに、不景気から脱却することは出来ず、日本はこの10年間で最もGDP成長率が低い2年間を味わうこととなった。
クルーグマンが自身の政策を推奨する理由は何だろうか。それは彼は日本が流動性の罠に陥っていると信じているからだ。とはいえ、クルーグマンは日本の金融システムに問題があることを認識し、銀行業界は再編されるべきだと考えている。だが、彼は経済全体における広範囲の通貨供給量を、現金通貨や預金通貨といった狭義の通貨供給に加えて拡大させることに失敗した原因は、金融機関の問題ではなく、日本経済が流動性の罠に陥っているからだと信じている。彼は現在のインフレは流動性の罠のもとでは不十分だと考えているが、その最大の障害は日銀だと指摘する。もし日銀が将来に向け、しっかりとインフレを促進していくことを約束できれば、総需要は引き上げられ、日本経済を復活させるかもしれない。クルーグマンは中央銀行が最低4%のインフレを、15年間維持させることを義務とする法案を通すように薦めている。
クルーグマンが推奨する政策は日本が抱える問題を悪化させるだけかもしれない。彼が勧める財政刺激策は、いまの消費者のニーズに合わない生産構造を維持する働きをするからだ。ケインジアンたちは誇らしげに「日本経済の不景気の原因はケインジアンの理論と一致している」と、主張する。しかし、多くのケインジアンのやり方は日本経済を復活させることに失敗している。実際に大規模な歳出と融資策は過去10年で試みられた。ケインジアンが薦めるように総需要にフォーカスすることは、日本が抱える問題の本質を見落とすことになる。ケインジアンが唱える歳出案は、日本経済を不況から脱却させることに失敗しただけでなく、日本政府の財政状況を悪化させ、経済を消費者の欲求にマッチするものから遠ざけた。
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オーストリア理論とは要するに新自由主義の一派ですね。
自由放任主義と言ってもよいでしょう。
景気循環の範囲内ならOKだがそこを逸脱した場合はオーストリア理論は当てはまらないとみずから言っているようにその理論には限界があります。すべてが自由であればよしとした自由主義信仰から目を覚ますことこそが世界経済立て直しのカギになるはずです。
*オーストリア理論となるべきところが途中オーストラリア理論と書かれていますよ。
新太さん
ご指摘頂き有難う御座います!
早速、オーストリア理論に修正致しました。